# この民法の翻訳は、平成十八年法律第七十八号までの改正(平成18年6月21日施行)について、「法令用語日英標準対訳辞書」(第一編および第三編第一章は平成18年3月版、第二編および第三編第二章〜第五章は平成19年3月版)に準拠して作成したものです。なお、この法令の翻訳は公定訳ではありません。法的効力を有するのは日本語の法令自体であり、翻訳はあくまでその理解を助けるための参考資料です。この翻訳の利用に伴って発生した問題について、一切の責任を負いかねますので、法律上の問題に関しては、官報に掲載された日本語の法令を参照してください。 民法 (明治二十九年法律第八十九号)   第一編 総則    第一章 通則 第一条 (基本原則) 1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。 2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 3 権利の濫用は、これを許さない。 第二条 (解釈の基準)  この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。    第二章 人     第一節 権利能力 第三条 1 私権の享有は、出生に始まる。 2 外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。     第二節 行為能力 第四条 (成年)  年齢二十歳をもって、成年とする。 第五条 (未成年者の法律行為) 1 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。 2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。 3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。 第六条 (未成年者の営業の許可) 1 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。 2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。 第七条 (後見開始の審判)  精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。 第八条 (成年被後見人及び成年後見人)  後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。 第九条 (成年被後見人の法律行為)  成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。 第十条 (後見開始の審判の取消し)  第七条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない。 第十一条 (保佐開始の審判)  精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。 第十二条 (被保佐人及び保佐人)  保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。 第十三条 (保佐人の同意を要する行為等) 1 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。  一 元本を領収し、又は利用すること。 #  二 借財又は保証をすること。  三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。  四 訴訟行為をすること。  五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。  六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。  七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。 #  八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。  九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。 2 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。 3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。 4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。 第十四条 (保佐開始の審判等の取消し) 1 第十一条本文に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判を取り消さなければならない。 2 家庭裁判所は、前項に規定する者の請求により、前条第二項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。 第十五条 (補助開始の審判) 1 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。 2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。 3 補助開始の審判は、第十七条第一項の審判又は第八百七十六条の九第一項の審判とともにしなければならない。 第十六条 (被補助人及び補助人)  補助開始の審判を受けた者は、被補助人とし、これに補助人を付する。 第十七条 (補助人の同意を要する旨の審判等) 1 家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。 2 本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。 3 補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。 4 補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。 第十八条 (補助開始の審判等の取消し) 1 第十五条第一項本文に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判を取り消さなければならない。 2 家庭裁判所は、前項に規定する者の請求により、前条第一項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。 3 前条第一項の審判及び第八百七十六条の九第一項の審判をすべて取り消す場合には、家庭裁判所は、補助開始の審判を取り消さなければならない。 第十九条 (審判相互の関係) 1 後見開始の審判をする場合において、本人が被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、その本人に係る保佐開始又は補助開始の審判を取り消さなければならない。 2 前項の規定は、保佐開始の審判をする場合において本人が成年被後見人若しくは被補助人であるとき、又は補助開始の審判をする場合において本人が成年被後見人若しくは被保佐人であるときについて準用する。 第二十条 (制限行為能力者の相手方の催告権) 1 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。 2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。 3 特別の方式を要する行為については、前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。 4 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。 第二十一条 (制限行為能力者の詐術)  制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。     第三節 住所 第二十二条 (住所)  各人の生活の本拠をその者の住所とする。 第二十三条 (居所) 1 住所が知れない場合には、居所を住所とみなす。 2 日本に住所を有しない者は、その者が日本人又は外国人のいずれであるかを問わず、日本における居所をその者の住所とみなす。ただし、準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合は、この限りでない。 第二十四条 (仮住所)  ある行為について仮住所を選定したときは、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなす。     第四節 不在者の財産の管理及び失踪の宣告 第二十五条 (不在者の財産の管理) 1 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。 2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。 第二十六条 (管理人の改任)  不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、管理人を改任することができる。 第二十七条 (管理人の職務) 1 前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。 2 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。 3 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。 第二十八条 (管理人の権限)  管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。 第二十九条 (管理人の担保提供及び報酬) 1 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。 2 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。 第三十条 (失踪の宣告) 1 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。 2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。 第三十一条 (失踪の宣告の効力)  前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。 第三十二条 (失踪の宣告の取消し) 1 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。 2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。     第五節 同時死亡の推定 第三十二条の二  数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。    第三章 法人     第一節 法人の設立 第三十三条 (法人の成立)  法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。 第三十四条 (公益法人の設立)  学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団又は財団であって、営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。 第三十五条 (名称の使用制限)  社団法人又は財団法人でない者は、その名称中に社団法人若しくは財団法人という文字又はこれらと誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。 第三十六条 (外国法人) 1 外国法人は、国、国の行政区画及び商事会社を除き、その成立を認許しない。ただし、法律又は条約の規定により認許された外国法人は、この限りでない。 2 前項の規定により認許された外国法人は、日本において成立する同種の法人と同一の私権を有する。ただし、外国人が享有することのできない権利及び法律又は条約中に特別の規定がある権利については、この限りでない。 第三十七条 (定款)  社団法人を設立しようとする者は、定款を作成し、次に掲げる事項を記載しなければならない。  一 目的  二 名称  三 事務所の所在地  四 資産に関する規定  五 理事の任免に関する規定  六 社員の資格の得喪に関する規定 第三十八条 (定款の変更) 1 定款は、総社員の四分の三以上の同意があるときに限り、変更することができる。ただし、定款に別段の定めがあるときは、この限りでない。 2 定款の変更は、主務官庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。 第三十九条 (寄附行為)  財団法人を設立しようとする者は、その設立を目的とする寄附行為で、第三十七条第一号から第五号までに掲げる事項を定めなければならない。 第四十条 (裁判所による名称等の定め)  財団法人を設立しようとする者が、その名称、事務所の所在地又は理事の任免の方法を定めないで死亡したときは、裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、これを定めなければならない。 第四十一条 (贈与又は遺贈に関する規定の準用) 1 生前の処分で寄附行為をするときは、その性質に反しない限り、贈与に関する規定を準用する。 2 遺言で寄附行為をするときは、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。 第四十二条 (寄附財産の帰属時期) 1 生前の処分で寄附行為をしたときは、寄附財産は、法人の設立の許可があった時から法人に帰属する。 2 遺言で寄附行為をしたときは、寄附財産は、遺言が効力を生じた時から法人に帰属したものとみなす。 第四十三条 (法人の能力)  法人は、法令の規定に従い、定款又は寄附行為で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。 第四十四条 (法人の不法行為能力等) 1 法人は、理事その他の代理人がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を負う。 2 法人の目的の範囲を超える行為によって他人に損害を加えたときは、その行為に係る事項の決議に賛成した社員及び理事並びにその決議を履行した理事その他の代理人は、連帯してその損害を賠償する責任を負う。 第四十五条 (法人の設立の登記等) 1 法人は、その設立の日から、主たる事務所の所在地においては二週間以内に、その他の事務所の所在地においては三週間以内に、登記をしなければならない。 2 法人の設立は、その主たる事務所の所在地において登記をしなければ、第三者に対抗することができない。 3 法人の設立後に新たに事務所を設けたときは、その事務所の所在地においては三週間以内に、登記をしなければならない。 第四十六条 (設立の登記の登記事項及び変更の登記等) 1 法人の設立の登記において登記すべき事項は、次のとおりとする。  一 目的  二 名称  三 事務所の所在場所  四 設立の許可の年月日  五 存立時期を定めたときは、その時期  六 資産の総額  七 出資の方法を定めたときは、その方法  八 理事の氏名及び住所 2 前項各号に掲げる事項に変更を生じたときは、主たる事務所の所在地においては二週間以内に、その他の事務所の所在地においては三週間以内に、変更の登記をしなければならない。この場合において、それぞれ登記前にあっては、その変更をもって第三者に対抗することができない。 3 理事の職務の執行を停止し、若しくはその職務を代行する者を選任する仮処分命令又はその仮処分命令を変更し、若しくは取り消す決定がされたときは、主たる事務所及びその他の事務所の所在地においてその登記をしなければならない。この場合においては、前項後段の規定を準用する。 第四十七条 (登記の期間)  第四十五条第一項及び前条の規定により登記すべき事項のうち官庁の許可を要するものの登記の期間については、その許可書が到達した日から起算する。 第四十八条 (事務所の移転の登記) 1 法人が主たる事務所を移転したときは、二週間以内に、旧所在地においては移転の登記をし、新所在地においては第四十六条第一項各号に掲げる事項を登記しなければならない。 2 法人が主たる事務所以外の事務所を移転したときは、旧所在地においては三週間以内に移転の登記をし、新所在地においては四週間以内に第四十六条第一項各号に掲げる事項を登記しなければならない。 3 同一の登記所の管轄区域内において事務所を移転したときは、その移転を登記すれば足りる。 第四十九条 (外国法人の登記) 1 第四十五条第三項、第四十六条及び前条の規定は、外国法人が日本に事務所を設ける場合について準用する。ただし、外国において生じた事項の登記の期間については、その通知が到達した日から起算する。 2 外国法人が初めて日本に事務所を設けたときは、その事務所の所在地において登記するまでは、第三者は、その法人の成立を否認することができる。 第五十条 (法人の住所)  法人の住所は、その主たる事務所の所在地にあるものとする。 第五十一条 (財産目録及び社員名簿) 1 法人は、設立の時及び毎年一月から三月までの間に財産目録を作成し、常にこれをその主たる事務所に備え置かなければならない。ただし、特に事業年度を設けるものは、設立の時及び毎事業年度の終了の時に財産目録を作成しなければならない。 2 社団法人は、社員名簿を備え置き、社員の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。     第二節 法人の管理 第五十二条 (理事) 1 法人には、一人又は数人の理事を置かなければならない。 2 理事が数人ある場合において、定款又は寄附行為に別段の定めがないときは、法人の事務は、理事の過半数で決する。 第五十三条 (法人の代表)  理事は、法人のすべての事務について、法人を代表する。ただし、定款の規定又は寄附行為の趣旨に反することはできず、また、社団法人にあっては総会の決議に従わなければならない。 第五十四条 (理事の代理権の制限)  理事の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。 第五十五条 (理事の代理行為の委任)  理事は、定款、寄附行為又は総会の決議によって禁止されていないときに限り、特定の行為の代理を他人に委任することができる。 第五十六条 (仮理事)  理事が欠けた場合において、事務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、仮理事を選任しなければならない。 第五十七条 (利益相反行為)  法人と理事との利益が相反する事項については、理事は、代理権を有しない。この場合においては、裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、特別代理人を選任しなければならない。 第五十八条 (監事)  法人には、定款、寄附行為又は総会の決議で、一人又は数人の監事を置くことができる。 第五十九条 (監事の職務)  監事の職務は、次のとおりとする。  一 法人の財産の状況を監査すること。  二 理事の業務の執行の状況を監査すること。  三 財産の状況又は業務の執行について、法令、定款若しくは寄附行為に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、総会又は主務官庁に報告をすること。  四 前号の報告をするため必要があるときは、総会を招集すること。 第六十条 (通常総会)  社団法人の理事は、少なくとも毎年一回、社員の通常総会を開かなければならない。 第六十一条 (臨時総会) 1 社団法人の理事は、必要があると認めるときは、いつでも臨時総会を招集することができる。 2 総社員の五分の一以上から会議の目的である事項を示して請求があったときは、理事は、臨時総会を招集しなければならない。ただし、総社員の五分の一の割合については、定款でこれと異なる割合を定めることができる。 第六十二条 (総会の招集)  総会の招集の通知は、会日より少なくとも五日前に、その会議の目的である事項を示し、定款で定めた方法に従ってしなければならない。 第六十三条 (社団法人の事務の執行)  社団法人の事務は、定款で理事その他の役員に委任したものを除き、すべて総会の決議によって行う。 第六十四条 (総会の決議事項)  総会においては、第六十二条の規定によりあらかじめ通知をした事項についてのみ、決議をすることができる。ただし、定款に別段の定めがあるときは、この限りでない。 第六十五条 (社員の表決権) 1 各社員の表決権は、平等とする。 2 総会に出席しない社員は、書面で、又は代理人によって表決をすることができる。 3 前二項の規定は、定款に別段の定めがある場合には、適用しない。 第六十六条 (表決権のない場合)  社団法人と特定の社員との関係について議決をする場合には、その社員は、表決権を有しない。 第六十七条 (法人の業務の監督) 1 法人の業務は、主務官庁の監督に属する。 2 主務官庁は、法人に対し、監督上必要な命令をすることができる。 3 主務官庁は、職権で、いつでも法人の業務及び財産の状況を検査することができる。     第三節 法人の解散 第六十八条 (法人の解散事由) 1 法人は、次に掲げる事由によって解散する。  一 定款又は寄附行為で定めた解散事由の発生  二 法人の目的である事業の成功又はその成功の不能  三 破産手続開始の決定  四 設立の許可の取消し 2 社団法人は、前項各号に掲げる事由のほか、次に掲げる事由によって解散する。  一 総会の決議  二 社員が欠けたこと。 第六十九条 (法人の解散の決議)  社団法人は、総社員の四分の三以上の賛成がなければ、解散の決議をすることができない。ただし、定款に別段の定めがあるときは、この限りでない。 第七十条 (法人についての破産手続の開始) 1 法人がその債務につきその財産をもって完済することができなくなった場合には、裁判所は、理事若しくは債権者の申立てにより又は職権で、破産手続開始の決定をする。 2 前項に規定する場合には、理事は、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。 第七十一条 (法人の設立の許可の取消し)  法人がその目的以外の事業をし、又は設立の許可を得た条件若しくは主務官庁の監督上の命令に違反し、その他公益を害すべき行為をした場合において、他の方法により監督の目的を達することができないときは、主務官庁は、その許可を取り消すことができる。正当な事由なく引き続き三年以上事業をしないときも、同様とする。 第七十二条 (残余財産の帰属) 1 解散した法人の財産は、定款又は寄附行為で指定した者に帰属する。 2 定款又は寄附行為で権利の帰属すべき者を指定せず、又はその者を指定する方法を定めなかったときは、理事は、主務官庁の許可を得て、その法人の目的に類似する目的のために、その財産を処分することができる。ただし、社団法人にあっては、総会の決議を経なければならない。 3 前二項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。 第七十三条 (清算法人)  解散した法人は、清算の目的の範囲内において、その清算の結了に至るまではなお存続するものとみなす。 第七十四条 (清算人)  法人が解散したときは、破産手続開始の決定による解散の場合を除き、理事がその清算人となる。ただし、定款若しくは寄附行為に別段の定めがあるとき、又は総会において理事以外の者を選任したときは、この限りでない。 第七十五条 (裁判所による清算人の選任)  前条の規定により清算人となる者がないとき、又は清算人が欠けたため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、清算人を選任することができる。 第七十六条 (清算人の解任)  重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、清算人を解任することができる。 第七十七条 (清算人及び解散の登記及び届出) 1 清算人は、破産手続開始の決定及び設立の許可の取消しの場合を除き、解散後主たる事務所の所在地においては二週間以内に、その他の事務所の所在地においては三週間以内に、その氏名及び住所並びに解散の原因及び年月日の登記をし、かつ、これらの事項を主務官庁に届け出なければならない。 2 清算中に就職した清算人は、就職後主たる事務所の所在地においては二週間以内に、その他の事務所の所在地においては三週間以内に、その氏名及び住所の登記をし、かつ、これらの事項を主務官庁に届け出なければならない。 3 前項の規定は、設立の許可の取消しによる解散の際に就職した清算人について準用する。 第七十八条 (清算人の職務及び権限) 1 清算人の職務は、次のとおりとする。  一 現務の結了  二 債権の取立て及び債務の弁済  三 残余財産の引渡し 2 清算人は、前項各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。 第七十九条 (債権の申出の催告等) 1 清算人は、その就職の日から二箇月以内に、少なくとも三回の公告をもって、債権者に対し、一定の期間内にその債権の申出をすべき旨の催告をしなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。 2 前項の公告には、債権者がその期間内に申出をしないときは、その債権は清算から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、清算人は、知れている債権者を除斥することができない。 3 清算人は、知れている債権者には、各別にその申出の催告をしなければならない。 4 第一項の規定による公告は、官報に掲載してする。 第八十条 (期間経過後の債権の申出)  前条第一項の期間の経過後に申出をした債権者は、法人の債務が完済された後まだ権利の帰属すべき者に引き渡されていない財産に対してのみ、請求をすることができる。 第八十一条 (清算法人についての破産手続の開始) 1 清算中に法人の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は、直ちに破産手続開始の申立てをし、その旨を公告しなければならない。 2 清算人は、清算中の法人が破産手続開始の決定を受けた場合において、破産管財人にその事務を引き継いだときは、その任務を終了したものとする。 3 前項に規定する場合において、清算中の法人が既に債権者に支払い、又は権利の帰属すべき者に引き渡したものがあるときは、破産管財人は、これを取り戻すことができる。 4 第一項の規定による公告は、官報に掲載してする。 第八十二条 (裁判所による監督) 1 法人の解散及び清算は、裁判所の監督に属する。 2 裁判所は、職権で、いつでも前項の監督に必要な検査をすることができる。 第八十三条 (清算結了の届出)  清算が結了したときは、清算人は、その旨を主務官庁に届け出なければならない。     第四節 補則 第八十四条 (主務官庁の権限の委任)  この章に規定する主務官庁の権限は、政令で定めるところにより、その全部又は一部を国に所属する行政庁に委任することができる。 第八十四条の二 (都道府県の執行機関による主務官庁の事務の処理) 1 この章に規定する主務官庁の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、都道府県の知事その他の執行機関(以下「都道府県の執行機関」という。)においてその全部又は一部を処理することとすることができる。 2 前項の場合において、主務官庁は、政令で定めるところにより、法人に対する監督上の命令又は設立の許可の取消しについて、都道府県の執行機関に対し指示をすることができる。 3 第一項の場合において、主務官庁は、都道府県の執行機関がその事務を処理するに当たってよるべき基準を定めることができる。 4 主務官庁が前項の基準を定めたときは、これを告示しなければならない。     第五節 罰則 第八十四条の三 1 法人の理事、監事又は清算人は、次の各号のいずれかに該当する場合には、五十万円以下の過料に処する。  一 この章に規定する登記を怠ったとき。  二 第五十一条の規定に違反し、又は財産目録若しくは社員名簿に不正の記載をしたとき。  三 第六十七条第三項又は第八十二条第二項の規定による主務官庁、その権限の委任を受けた国に所属する行政庁若しくはその権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関又は裁判所の検査を妨げたとき。  四 第六十七条第二項の規定による主務官庁又はその権限の委任を受けた国に所属する行政庁若しくはその権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関の監督上の命令に違反したとき。  五 官庁、主務官庁の権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関又は総会に対し、不実の申立てをし、又は事実を隠ぺいしたとき。  六 第七十条第二項又は第八十一条第一項の規定による破産手続開始の申立てを怠ったとき。  七 第七十九条第一項又は第八十一条第一項の公告を怠り、又は不正の公告をしたとき。 2 第三十五条の規定に違反した者は、十万円以下の過料に処する。    第四章 物 第八十五条 (定義)  この法律において「物」とは、有体物をいう。 第八十六条 (不動産及び動産) 1 土地及びその定着物は、不動産とする。 2 不動産以外の物は、すべて動産とする。 3 無記名債権は、動産とみなす。 第八十七条 (主物及び従物) 1 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。 2 従物は、主物の処分に従う。 第八十八条 (天然果実及び法定果実) 1 物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。 2 物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。 第八十九条 (果実の帰属) 1 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。 2 法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。    第五章 法律行為     第一節 総則 第九十条 (公序良俗)  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。 第九十一条 (任意規定と異なる意思表示)  法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。 第九十二条 (任意規定と異なる慣習)  法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。     第二節 意思表示 第九十三条 (心裡留保)  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。 第九十四条 (虚偽表示) 1 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。 2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。 第九十五条 (錯誤)  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 第九十六条 (詐欺又は強迫) 1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。 2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。 3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。 第九十七条 (隔地者に対する意思表示) 1 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。 2 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。 第九十八条 (公示による意思表示) 1 意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。 2 前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載して行う。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。 3 公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。 4 公示に関する手続は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の、相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。 5 裁判所は、表意者に、公示に関する費用を予納させなければならない。 第九十八条の二 (意思表示の受領能力)  意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない。     第三節 代理 第九十九条 (代理行為の要件及び効果) 1 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。 2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。 第百条 (本人のためにすることを示さない意思表示)  代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。 第百一条 (代理行為の瑕疵) 1 意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。 2 特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。 第百二条 (代理人の行為能力)  代理人は、行為能力者であることを要しない。 第百三条 (権限の定めのない代理人の権限)  権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。  一 保存行為  二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為 第百四条 (任意代理人による復代理人の選任)  委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。 第百五条 (復代理人を選任した代理人の責任) 1 代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。 2 代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。 第百六条 (法定代理人による復代理人の選任)  法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、前条第一項の責任のみを負う。 第百七条 (復代理人の権限等) 1 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。 2 復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。 第百八条 (自己契約及び双方代理)  同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。 第百九条 (代理権授与の表示による表見代理)  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 第百十条 (権限外の行為の表見代理)  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。 第百十一条 (代理権の消滅事由) 1 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。  一 本人の死亡  二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。 2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。 第百十二条 (代理権消滅後の表見代理)  代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。 第百十三条 (無権代理) 1 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。 2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。 第百十四条 (無権代理の相手方の催告権)  前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。 第百十五条 (無権代理の相手方の取消権)  代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。 第百十六条 (無権代理行為の追認)  追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。 第百十七条 (無権代理人の責任) 1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。 2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。 第百十八条 (単独行為の無権代理)  単独行為については、その行為の時において、相手方が、代理人と称する者が代理権を有しないで行為をすることに同意し、又はその代理権を争わなかったときに限り、第百十三条から前条までの規定を準用する。代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときも、同様とする。     第四節 無効及び取消し 第百十九条 (無効な行為の追認)  無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。 第百二十条 (取消権者) 1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。 2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。 第百二十一条 (取消しの効果)  取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。 第百二十二条 (取り消すことができる行為の追認)  取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。 第百二十三条 (取消し及び追認の方法)  取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。 第百二十四条 (追認の要件) 1 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。 2 成年被後見人は、行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追認をすることができない。 3 前二項の規定は、法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には、適用しない。 第百二十五条 (法定追認)  前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。  一 全部又は一部の履行  二 履行の請求  三 更改  四 担保の供与  五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡  六 強制執行 第百二十六条 (取消権の期間の制限)  取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。     第五節 条件及び期限 第百二十七条 (条件が成就した場合の効果) 1 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。 2 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。 3 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。 第百二十八条 (条件の成否未定の間における相手方の利益の侵害の禁止)  条件付法律行為の各当事者は、条件の成否が未定である間は、条件が成就した場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができない。 第百二十九条 (条件の成否未定の間における権利の処分等)  条件の成否が未定である間における当事者の権利義務は、一般の規定に従い、処分し、相続し、若しくは保存し、又はそのために担保を供することができる。 第百三十条 (条件の成就の妨害)  条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。 第百三十一条 (既成条件) 1 条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。 2 条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。 3 前二項に規定する場合において、当事者が条件が成就したこと又は成就しなかったことを知らない間は、第百二十八条及び第百二十九条の規定を準用する。 第百三十二条 (不法条件)  不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。 第百三十三条 (不能条件) 1 不能の停止条件を付した法律行為は、無効とする。 2 不能の解除条件を付した法律行為は、無条件とする。 第百三十四条 (随意条件)  停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。 第百三十五条 (期限の到来の効果) 1 法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。 2 法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する。 第百三十六条 (期限の利益及びその放棄) 1 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。 2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。 第百三十七条 (期限の利益の喪失)  次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。  一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。  二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。  三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。    第六章 期間の計算 第百三十八条 (期間の計算の通則)  期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。 第百三十九条 (期間の起算)  時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。 第百四十条  日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。 第百四十一条 (期間の満了)  前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。 第百四十二条  期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。 第百四十三条 (暦による期間の計算) 1 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。 2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。    第七章 時効     第一節 総則 第百四十四条 (時効の効力)  時効の効力は、その起算日にさかのぼる。 第百四十五条 (時効の援用)  時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。 第百四十六条 (時効の利益の放棄)  時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。 第百四十七条 (時効の中断事由)  時効は、次に掲げる事由によって中断する。  一 請求  二 差押え、仮差押え又は仮処分  三 承認 第百四十八条 (時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)  前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。 第百四十九条 (裁判上の請求)  裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。 第百五十条 (支払督促)  支払督促は、債権者が民事訴訟法第三百九十二条に規定する期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。 第百五十一条 (和解及び調停の申立て)  和解の申立て又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)による調停の申立ては、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、一箇月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない。 第百五十二条 (破産手続参加等)  破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加は、債権者がその届出を取り下げ、又はその届出が却下されたときは、時効の中断の効力を生じない。 第百五十三条 (催告)  催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事審判法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。 第百五十四条 (差押え、仮差押え及び仮処分)  差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。 第百五十五条  差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じない。 第百五十六条 (承認)  時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。 第百五十七条 (中断後の時効の進行) 1 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。 2 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。 第百五十八条 (未成年者又は成年被後見人と時効の停止) 1 時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。 2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。 第百五十九条 (夫婦間の権利の時効の停止)  夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。 第百六十条 (相続財産に関する時効の停止)  相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。 第百六十一条 (天災等による時効の停止)  時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から二週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。     第二節 取得時効 第百六十二条 (所有権の取得時効) 1 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。 第百六十三条 (所有権以外の財産権の取得時効)  所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。 第百六十四条 (占有の中止等による取得時効の中断)  第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。 第百六十五条  前条の規定は、第百六十三条の場合について準用する。     第三節 消滅時効 第百六十六条 (消滅時効の進行等) 1 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。 2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。 第百六十七条 (債権等の消滅時効) 1 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。 2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。 第百六十八条 (定期金債権の消滅時効) 1 定期金の債権は、第一回の弁済期から二十年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から十年間行使しないときも、同様とする。 2 定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。 第百六十九条 (定期給付債権の短期消滅時効)  年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。 第百七十条 (三年の短期消滅時効)  次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。  一 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権  二 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権 第百七十一条  弁護士又は弁護士法人は事件が終了した時から、公証人はその職務を執行した時から三年を経過したときは、その職務に関して受け取った書類について、その責任を免れる。 第百七十二条 (二年の短期消滅時効) 1 弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から二年間行使しないときは、消滅する。 2 前項の規定にかかわらず、同項の事件中の各事項が終了した時から五年を経過したときは、同項の期間内であっても、その事項に関する債権は、消滅する。 第百七十三条  次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。  一 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権  二 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権  三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権 第百七十四条 (一年の短期消滅時効)  次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。  一 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権  二 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権  三 運送賃に係る債権  四 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権 #  五 動産の損料に係る債権 第百七十四条の二 (判決で確定した権利の消滅時効) 1 確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。 2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。   第二編 物権    第一章 総則 第百七十五条(物権の創設)  物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。 第百七十六条(物権の設定及び移転)  物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。 第百七十七条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。 第百七十八条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)  動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。 第百七十九条(混同) 1 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。 2 所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。 3 前二項の規定は、占有権については、適用しない。    第二章 占有権     第一節 占有権の取得 第百八十条(占有権の取得)  占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。 第百八十一条(代理占有)  占有権は、代理人によって取得することができる。 第百八十二条(現実の引渡し及び簡易の引渡し) 1 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。 2 譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。 第百八十三条(占有改定)  代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。 第百八十四条(指図による占有移転)  代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。 第百八十五条(占有の性質の変更)  権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。 第百八十六条(占有の態様等に関する推定) 1 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。 2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。 第百八十七条(占有の承継) 1 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。 2 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。     第二節 占有権の効力 第百八十八条(占有物について行使する権利の適法の推定)  占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。 第百八十九条(善意の占有者による果実の取得等) 1 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。 2 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。 第百九十条(悪意の占有者による果実の返還等) 1 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。 2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。 第百九十一条(占有者による損害賠償)  占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。 第百九十二条(即時取得)  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。 第百九十三条(盗品又は遺失物の回復)  前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。 第百九十四条  占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。 第百九十五条(動物の占有による権利の取得)  家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。 第百九十六条(占有者による費用の償還請求) 1 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。 2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。 第百九十七条(占有の訴え)  占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。 第百九十八条(占有保持の訴え)  占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。 第百九十九条(占有保全の訴え)  占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。 第二百条(占有回収の訴え) 1 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。 2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。 第二百一条(占有の訴えの提起期間) 1 占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。 2 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。 3 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。 第二百二条(本権の訴えとの関係) 1 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。 2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。     第三節 占有権の消滅 第二百三条(占有権の消滅事由)  占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。 第二百四条(代理占有権の消滅事由) 1 代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。  一 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。  二 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。  三 代理人が占有物の所持を失ったこと。 2 占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。     第四節 準占有 第二百五条  この章の規定は、自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用する。    第三章 所有権     第一節 所有権の限界      第一款 所有権の内容及び範囲 第二百六条(所有権の内容)  所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。 第二百七条(土地所有権の範囲)  土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。 第二百八条  削除      第二款 相隣関係 第二百九条(隣地の使用請求) 1 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。 2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。 第二百十条(公道に至るための他の土地の通行権) 1 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。 2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。 第二百十一条 1 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。 2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。 第二百十二条  第二百十条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。 第二百十三条 1 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。 2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。 第二百十四条(自然水流に対する妨害の禁止)  土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。 第二百十五条(水流の障害の除去)  水流が天災その他避けることのできない事変により低地において閉塞したときは、高地の所有者は、自己の費用で、水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる。 第二百十六条(水流に関する工作物の修繕等)  他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。 第二百十七条(費用の負担についての慣習)  前二条の場合において、費用の負担について別段の慣習があるときは、その慣習に従う。 第二百十八条(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)  土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。 第二百十九条(水流の変更) 1 溝、堀その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路又は幅員を変更してはならない。 2 両岸の土地が水流地の所有者に属するときは、その所有者は、水路及び幅員を変更することができる。ただし、水流が隣地と交わる地点において、自然の水路に戻さなければならない。 3 前二項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。 第二百二十条(排水のための低地の通水)  高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。 第二百二十一条(通水用工作物の使用) 1 土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。 2 前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。 第二百二十二条(堰の設置及び使用) 1 水流地の所有者は、堰を設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。 2 対岸の土地の所有者は、水流地の一部がその所有に属するときは、前項の堰を使用することができる。 3 前条第二項の規定は、前項の場合について準用する。 第二百二十三条(境界標の設置)  土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。 第二百二十四条(境界標の設置及び保存の費用)  境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。 第二百二十五条(囲障の設置) 1 二棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。 2 当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ二メートルのものでなければならない。 第二百二十六条(囲障の設置及び保存の費用)  前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。 第二百二十七条(相隣者の一人による囲障の設置)  相隣者の一人は、第二百二十五条第二項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし、これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。 第二百二十八条(囲障の設置等に関する慣習)  前三条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。 第二百二十九条(境界標等の共有の推定)  境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。 第二百三十条 1 一棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁については、前条の規定は、適用しない。 2 高さの異なる二棟の隣接する建物を隔てる障壁の高さが、低い建物の高さを超えるときは、その障壁のうち低い建物を超える部分についても、前項と同様とする。ただし、防火障壁については、この限りでない。 第二百三十一条(共有の障壁の高さを増す工事) 1 相隣者の一人は、共有の障壁の高さを増すことができる。ただし、その障壁がその工事に耐えないときは、自己の費用で、必要な工作を加え、又はその障壁を改築しなければならない。 2 前項の規定により障壁の高さを増したときは、その高さを増した部分は、その工事をした者の単独の所有に属する。 第二百三十二条  前条の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。 第二百三十三条(竹木の枝の切除及び根の切取り) 1 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。 2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。 第二百三十四条(境界線付近の建築の制限) 1 建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。 2 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。 第二百三十五条 1 境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。 2 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。 第二百三十六条(境界線付近の建築に関する慣習)  前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。 第二百三十七条(境界線付近の掘削の制限) 1 井戸、用水だめ、下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から二メートル以上、池、穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から一メートル以上の距離を保たなければならない。 2 導水管を埋め、又は溝若しくは堀を掘るには、境界線からその深さの二分の一以上の距離を保たなければならない。ただし、一メートルを超えることを要しない。 第二百三十八条(境界線付近の掘削に関する注意義務)  境界線の付近において前条の工事をするときは、土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。     第二節 所有権の取得 第二百三十九条(無主物の帰属) 1 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。 2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。 第二百四十条(遺失物の拾得)  遺失物は、遺失物法(明治三十二年法律第八十七号)の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。 第二百四十一条(埋蔵物の発見)  埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。 第二百四十二条(不動産の付合)  不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。 第二百四十三条(動産の付合)  所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。 第二百四十四条  付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。 第二百四十五条(混和)  前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。 第二百四十六条(加工) 1 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。 2 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。 第二百四十七条(付合、混和又は加工の効果) 1 第二百四十二条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。 2 前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する。 第二百四十八条(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)  第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。     第三節 共有 第二百四十九条(共有物の使用)  各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。 第二百五十条(共有持分の割合の推定)  各共有者の持分は、相等しいものと推定する。 第二百五十一条(共有物の変更)  各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。 第二百五十二条(共有物の管理)  共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。 第二百五十三条(共有物に関する負担) 1 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。 2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。 第二百五十四条(共有物についての債権)  共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。 第二百五十五条(持分の放棄及び共有者の死亡)  共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。 第二百五十六条(共有物の分割請求) 1 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。 2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。 第二百五十七条  前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。 第二百五十八条(裁判による共有物の分割) 1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。 2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。 第二百五十九条(共有に関する債権の弁済) 1 共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。 2 債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。 第二百六十条(共有物の分割への参加) 1 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。 2 前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。 第二百六十一条(分割における共有者の担保責任)  各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。 第二百六十二条(共有物に関する証書) 1 分割が完了したときは、各分割者は、その取得した物に関する証書を保存しなければならない。 2 共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は、その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。 3 前項の場合において、最大の部分を取得した者がないときは、分割者間の協議で証書の保存者を定める。協議が調わないときは、裁判所が、これを指定する。 4 証書の保存者は、他の分割者の請求に応じて、その証書を使用させなければならない。 第二百六十三条(共有の性質を有する入会権)  共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。 第二百六十四条(準共有)  この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。    第四章 地上権 第二百六十五条(地上権の内容)  地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。 第二百六十六条(地代) 1 第二百七十四条から第二百七十六条までの規定は、地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。 2 地代については、前項に規定するもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。 第二百六十七条(相隣関係の規定の準用)  前章第一節第二款(相隣関係)の規定は、地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。ただし、第二百二十九条の規定は、境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り、地上権者について準用する。 第二百六十八条(地上権の存続期間) 1 設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合において、別段の慣習がないときは、地上権者は、いつでもその権利を放棄することができる。ただし、地代を支払うべきときは、一年前に予告をし、又は期限の到来していない一年分の地代を支払わなければならない。 2 地上権者が前項の規定によりその権利を放棄しないときは、裁判所は、当事者の請求により、二十年以上五十年以下の範囲内において、工作物又は竹木の種類及び状況その他地上権の設定当時の事情を考慮して、その存続期間を定める。 第二百六十九条(工作物等の収去等) 1 地上権者は、その権利が消滅した時に、土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし、土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは、地上権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことができない。 2 前項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。 第二百六十九条の二(地下又は空間を目的とする地上権) 1 地下又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。この場合においては、設定行為で、地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。 2 前項の地上権は、第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合においても、その権利又はこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があるときは、設定することができる。この場合において、土地の使用又は収益をする権利を有する者は、その地上権の行使を妨げることができない。    第五章 永小作権 第二百七十条(永小作権の内容)  永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。 第二百七十一条(永小作人による土地の変更の制限)  永小作人は、土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない。 第二百七十二条(永小作権の譲渡又は土地の賃貸)  永小作人は、その権利を他人に譲り渡し、又はその権利の存続期間内において耕作若しくは牧畜のため土地を賃貸することができる。ただし、設定行為で禁じたときは、この限りでない。 第二百七十三条(賃貸借に関する規定の準用)  永小作人の義務については、この章の規定及び設定行為で定めるもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。 第二百七十四条(小作料の減免)  永小作人は、不可抗力により収益について損失を受けたときであっても、小作料の免除又は減額を請求することができない。 第二百七十五条(永小作権の放棄)  永小作人は、不可抗力によって、引き続き三年以上全く収益を得ず、又は五年以上小作料より少ない収益を得たときは、その権利を放棄することができる。 第二百七十六条(永小作権の消滅請求)  永小作人が引き続き二年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は、永小作権の消滅を請求することができる。 第二百七十七条(永小作権に関する慣習)  第二百七十一条から前条までの規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。 第二百七十八条(永小作権の存続期間) 1 永小作権の存続期間は、二十年以上五十年以下とする。設定行為で五十年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする。 2 永小作権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から五十年を超えることができない。 3 設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは、その期間は、別段の慣習がある場合を除き、三十年とする。 第二百七十九条(工作物等の収去等)  第二百六十九条の規定は、永小作権について準用する。    第六章 地役権 第二百八十条(地役権の内容)  地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。 第二百八十一条(地役権の付従性) 1 地役権は、要役地(地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。 2 地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができない。 第二百八十二条(地役権の不可分性) 1 土地の共有者の一人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。 2 土地の分割又はその一部の譲渡の場合には、地役権は、その各部のために又はその各部について存する。ただし、地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは、この限りでない。 第二百八十三条(地役権の時効取得)  地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。 第二百八十四条 1 土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、これを取得する。 2 共有者に対する時効の中断は、地役権を行使する各共有者に対してしなければ、その効力を生じない。 3 地役権を行使する共有者が数人ある場合には、その一人について時効の停止の原因があっても、時効は、各共有者のために進行する。 第二百八十五条(用水地役権) 1 用水地役権の承役地(地役権者以外の者の土地であって、要役地の便益に供されるものをいう。以下同じ。)において、水が要役地及び承役地の需要に比して不足するときは、その各土地の需要に応じて、まずこれを生活用に供し、その残余を他の用途に供するものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。 2 同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは、後の地役権者は、前の地役権者の水の使用を妨げてはならない。 第二百八十六条(承役地の所有者の工作物の設置義務等)  設定行為又は設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け、又はその修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人も、その義務を負担する。 第二百八十七条  承役地の所有者は、いつでも、地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し、これにより前条の義務を免れることができる。 第二百八十八条(承役地の所有者の工作物の使用) 1 承役地の所有者は、地役権の行使を妨げない範囲内において、その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる。 2 前項の場合には、承役地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。 第二百八十九条(承役地の時効取得による地役権の消滅)  承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権は、これによって消滅する。 第二百九十条  前条の規定による地役権の消滅時効は、地役権者がその権利を行使することによって中断する。 第二百九十一条(地役権の消滅時効)  第百六十七条第二項に規定する消滅時効の期間は、継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し、継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。 第二百九十二条  要役地が数人の共有に属する場合において、その一人のために時効の中断又は停止があるときは、その中断又は停止は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる。 第二百九十三条  地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅する。 第二百九十四条(共有の性質を有しない入会権)  共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。    第七章 留置権 第二百九十五条(留置権の内容) 1 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。 2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。 第二百九十六条(留置権の不可分性)  留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。 第二百九十七条(留置権者による果実の収取) 1 留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。 2 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。 第二百九十八条(留置権者による留置物の保管等) 1 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。 2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。 3 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。 第二百九十九条(留置権者による費用の償還請求) 1 留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。 2 留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。 第三百条(留置権の行使と債権の消滅時効)  留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。 第三百一条(担保の供与による留置権の消滅)  債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。 第三百二条(占有の喪失による留置権の消滅)  留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第二百九十八条第二項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。    第八章 先取特権     第一節 総則 第三百三条(先取特権の内容)  先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。 第三百四条(物上代位) 1 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。 第三百五条(先取特権の不可分性)  第二百九十六条の規定は、先取特権について準用する。     第二節 先取特権の種類      第一款 一般の先取特権 第三百六条(一般の先取特権)  次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。  一 共益の費用  二 雇用関係  三 葬式の費用  四 日用品の供給 第三百七条(共益費用の先取特権) 1 共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。 2 前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。 第三百八条(雇用関係の先取特権)  雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。 第三百九条(葬式費用の先取特権) 1 葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。 2 前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。 第三百十条(日用品供給の先取特権)  日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。      第二款 動産の先取特権 第三百十一条(動産の先取特権)  次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。  一 不動産の賃貸借  二 旅館の宿泊  三 旅客又は荷物の運輸  四 動産の保存  五 動産の売買  六 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給  七 農業の労務  八 工業の労務 第三百十二条(不動産賃貸の先取特権)  不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。 第三百十三条(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲) 1 土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。 2 建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。 第三百十四条  賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。 第三百十五条(不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲)  賃借人の財産のすべてを清算する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。 第三百十六条  賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。 第三百十七条(旅館宿泊の先取特権)  旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する。 第三百十八条(運輸の先取特権)  運輸の先取特権は、旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用に関し、運送人の占有する荷物について存在する。 第三百十九条(即時取得の規定の準用)  第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。 第三百二十条(動産保存の先取特権)  動産の保存の先取特権は、動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その動産について存在する。 第三百二十一条(動産売買の先取特権)  動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。 第三百二十二条(種苗又は肥料の供給の先取特権)  種苗又は肥料の供給の先取特権は、種苗又は肥料の代価及びその利息に関し、その種苗又は肥料を用いた後一年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。 第三百二十三条(農業労務の先取特権)  農業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の一年間の賃金に関し、その労務によって生じた果実について存在する。 第三百二十四条(工業労務の先取特権)  工業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の三箇月間の賃金に関し、その労務によって生じた製作物について存在する。      第三款 不動産の先取特権 第三百二十五条(不動産の先取特権)  次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。  一 不動産の保存  二 不動産の工事  三 不動産の売買 第三百二十六条(不動産保存の先取特権)  不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。 第三百二十七条(不動産工事の先取特権) 1 不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。 2 前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。 第三百二十八条(不動産売買の先取特権)  不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。     第三節 先取特権の順位 第三百二十九条(一般の先取特権の順位) 1 一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。 2 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。 第三百三十条(動産の先取特権の順位) 1 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。  一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権  二 動産の保存の先取特権  三 動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権 2 前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。 3 果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。 第三百三十一条(不動産の先取特権の順位) 1 同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百二十五条各号に掲げる順序に従う。 2 同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。 第三百三十二条(同一順位の先取特権)  同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。     第四節 先取特権の効力 第三百三十三条(先取特権と第三取得者)  先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。 第三百三十四条(先取特権と動産質権との競合)  先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は、第三百三十条の規定による第一順位の先取特権者と同一の権利を有する。 第三百三十五条(一般の先取特権の効力) 1 一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。 2 一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。 3 一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。 4 前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。 第三百三十六条(一般の先取特権の対抗力)  一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。 第三百三十七条(不動産保存の先取特権の登記)  不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。 第三百三十八条(不動産工事の先取特権の登記) 1 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。 2 工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。 第三百三十九条(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)  前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。 第三百四十条(不動産売買の先取特権の登記)  不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。 第三百四十一条(抵当権に関する規定の準用)  先取特権の効力については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する。    第九章 質権     第一節 総則 第三百四十二条(質権の内容)  質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。 第三百四十三条(質権の目的)  質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。 第三百四十四条(質権の設定)  質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。 第三百四十五条(質権設定者による代理占有の禁止)  質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。 第三百四十六条(質権の被担保債権の範囲)  質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。 第三百四十七条(質物の留置)  質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。 第三百四十八条(転質)  質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。 第三百四十九条(契約による質物の処分の禁止)  質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。 第三百五十条(留置権及び先取特権の規定の準用)  第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する。 第三百五十一条(物上保証人の求償権)  他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。     第二節 動産質 第三百五十二条(動産質の対抗要件)  動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。 第三百五十三条(質物の占有の回復)  動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。 第三百五十四条(動産質権の実行)  動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において、動産質権者は、あらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。 第三百五十五条(動産質権の順位)  同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。     第三節 不動産質 第三百五十六条(不動産質権者による使用及び収益)  不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。 第三百五十七条(不動産質権者による管理の費用等の負担)  不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。 第三百五十八条(不動産質権者による利息の請求の禁止)  不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。 第三百五十九条(設定行為に別段の定めがある場合等)  前三条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百八十条第二号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。 第三百六十条(不動産質権の存続期間) 1 不動産質権の存続期間は、十年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、十年とする。 2 不動産質権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から十年を超えることができない。 第三百六十一条(抵当権の規定の準用)  不動産質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、次章(抵当権)の規定を準用する。     第四節 権利質 第三百六十二条(権利質の目的等) 1 質権は、財産権をその目的とすることができる。 2 前項の質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、前三節(総則、動産質及び不動産質)の規定を準用する。 第三百六十三条(債権質の設定)  債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするときは、質権の設定は、その証書を交付することによって、その効力を生ずる。 第三百六十四条(指名債権を目的とする質権の対抗要件)  指名債権を質権の目的としたときは、第四百六十七条の規定に従い、第三債務者に質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。 第三百六十五条(指図債権を目的とする質権の対抗要件)  指図債権を質権の目的としたときは、その証書に質権の設定の裏書をしなければ、これをもって第三者に対抗することができない。 第三百六十六条(質権者による債権の取立て等) 1 質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。 2 債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。 3 前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。 4 債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。 第三百六十七条  削除 第三百六十八条  削除    第十章 抵当権     第一節 総則 第三百六十九条(抵当権の内容) 1 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。 2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。 第三百七十条(抵当権の効力の及ぶ範囲)  抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び第四百二十四条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。 第三百七十一条  抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。 第三百七十二条(留置権等の規定の準用)  第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。     第二節 抵当権の効力 第三百七十三条(抵当権の順位)  同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。 第三百七十四条(抵当権の順位の変更) 1 抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。 2 前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。 第三百七十五条(抵当権の被担保債権の範囲) 1 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。 2 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。 第三百七十六条(抵当権の処分) 1 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。 2 前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。 第三百七十七条(抵当権の処分の対抗要件) 1 前条の場合には、第四百六十七条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。 2 主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。 第三百七十八条(代価弁済)  抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。 第三百七十九条(抵当権消滅請求)  抵当不動産の第三取得者は、第三百八十三条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。 第三百八十条  主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。 第三百八十一条  抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができない。 第三百八十二条(抵当権消滅請求の時期)  抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。 第三百八十三条(抵当権消滅請求の手続)  抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。  一 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面  二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)  三 債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面 第三百八十四条(債権者のみなし承諾)  次に掲げる場合には、前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、抵当不動産の第三取得者が同条第三号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。  一 その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。  二 その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。  三 第一号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。  四 第一号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第百八十八条において準用する同法第六十三条第三項若しくは第六十八条の三第三項の規定又は同法第百八十三条第一項第五号の謄本が提出された場合における同条第二項の規定による決定を除く。)が確定したとき。 第三百八十五条(競売の申立ての通知)  第三百八十三条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、前条第一号の申立てをするときは、同号の期間内に、債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。 第三百八十六条(抵当権消滅請求の効果)  登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは、抵当権は、消滅する。 第三百八十七条(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力) 1 登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。 2 抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。 第三百八十八条(法定地上権)  土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。 第三百八十九条(抵当地の上の建物の競売) 1 抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。 2 前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。 第三百九十条(抵当不動産の第三取得者による買受け)  抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる。 第三百九十一条(抵当不動産の第三取得者による費用の償還請求)  抵当不動産の第三取得者は、抵当不動産について必要費又は有益費を支出したときは、第百九十六条の区別に従い、抵当不動産の代価から、他の債権者より先にその償還を受けることができる。 第三百九十二条(共同抵当における代価の配当) 1 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。 2 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。 第三百九十三条(共同抵当における代位の付記登記)  前条第二項後段の規定により代位によって抵当権を行使する者は、その抵当権の登記にその代位を付記することができる。 第三百九十四条(抵当不動産以外の財産からの弁済) 1 抵当権者は、抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ、他の財産から弁済を受けることができる。 2 前項の規定は、抵当不動産の代価に先立って他の財産の代価を配当すべき場合には、適用しない。この場合において、他の各債権者は、抵当権者に同項の規定による弁済を受けさせるため、抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる。 第三百九十五条(抵当建物使用者の引渡しの猶予) 1 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。  一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者  二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者 2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。     第三節 抵当権の消滅 第三百九十六条(抵当権の消滅時効)  抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。 第三百九十七条(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)  債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。 第三百九十八条(抵当権の目的である地上権等の放棄)  地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。     第四節 根抵当 第三百九十八条の二(根抵当権) 1 抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。 2 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。 3 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権又は手形上若しくは小切手上の請求権は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。 第三百九十八条の三(根抵当権の被担保債権の範囲) 1 根抵当権者は、確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる。 2 債務者との取引によらないで取得する手形上又は小切手上の請求権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において、次に掲げる事由があったときは、その前に取得したものについてのみ、その根抵当権を行使することができる。ただし、その後に取得したものであっても、その事由を知らないで取得したものについては、これを行使することを妨げない。   一 債務者の支払の停止   二 債務者についての破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立て   三 抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え 第三百九十八条の四(根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更) 1 元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても、同様とする。 2 前項の変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。 3 第一項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。 第三百九十八条の五(根抵当権の極度額の変更)  根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができない。 第三百九十八条の六(根抵当権の元本確定期日の定め) 1 根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め又は変更することができる。 2 第三百九十八条の四第二項の規定は、前項の場合について準用する。 3 第一項の期日は、これを定め又は変更した日から五年以内でなければならない。 4 第一項の期日の変更についてその変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定する。 第三百九十八条の七(根抵当権の被担保債権の譲渡等) 1 元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使することができない。元本の確定前に債務者のために又は債務者に代わって弁済をした者も、同様とする。 2 元本の確定前に債務の引受けがあったときは、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができない。 3 元本の確定前に債権者又は債務者の交替による更改があったときは、その当事者は、第五百十八条の規定にかかわらず、根抵当権を更改後の債務に移すことができない。 第三百九十八条の八(根抵当権者又は債務者の相続) 1 元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。 2 元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。 3 第三百九十八条の四第二項の規定は、前二項の合意をする場合について準用する。 4 第一項及び第二項の合意について相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。 第三百九十八条の九(根抵当権者又は債務者の合併) 1 元本の確定前に根抵当権者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債権のほか、合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。 2 元本の確定前にその債務者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債務のほか、合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。 3 前二項の場合には、根抵当権設定者は、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、前項の場合において、その債務者が根抵当権設定者であるときは、この限りでない。 4 前項の規定による請求があったときは、担保すべき元本は、合併の時に確定したものとみなす。 5 第三項の規定による請求は、根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から二週間を経過したときは、することができない。合併の日から一箇月を経過したときも、同様とする。 第三百九十八条の十(根抵当権者又は債務者の会社分割) 1 元本の確定前に根抵当権者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債権のほか、分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。 2 元本の確定前にその債務者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債務のほか、分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。 3 前条第三項から第五項までの規定は、前二項の場合について準用する。 第三百九十八条の十一(根抵当権の処分) 1 元本の確定前においては、根抵当権者は、第三百七十六条第一項の規定による根抵当権の処分をすることができない。ただし、その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない。 2 第三百七十七条第二項の規定は、前項ただし書の場合において元本の確定前にした弁済については、適用しない。 第三百九十八条の十二(根抵当権の譲渡) 1 元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができる。 2 根抵当権者は、その根抵当権を二個の根抵当権に分割して、その一方を前項の規定により譲り渡すことができる。この場合において、その根抵当権を目的とする権利は、譲り渡した根抵当権について消滅する。 3 前項の規定による譲渡をするには、その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得なければならない。 第三百九十八条の十三(根抵当権の一部譲渡)  元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すことをいう。以下この節において同じ。)をすることができる。 第三百九十八条の十四(根抵当権の共有) 1 根抵当権の共有者は、それぞれその債権額の割合に応じて弁済を受ける。ただし、元本の確定前に、これと異なる割合を定め、又はある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは、その定めに従う。 2 根抵当権の共有者は、他の共有者の同意を得て、第三百九十八条の十二第一項の規定によりその権利を譲り渡すことができる。 第三百九十八条の十五(抵当権の順位の譲渡又は放棄と根抵当権の譲渡又は一部譲渡)  抵当権の順位の譲渡又は放棄を受けた根抵当権者が、その根抵当権の譲渡又は一部譲渡をしたときは、譲受人は、その順位の譲渡又は放棄の利益を受ける。 第三百九十八条の十六(共同根抵当)  第三百九十二条及び第三百九十三条の規定は、根抵当権については、その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り、適用する。 第三百九十八条の十七(共同根抵当の変更等) 1 前条の登記がされている根抵当権の担保すべき債権の範囲、債務者若しくは極度額の変更又はその譲渡若しくは一部譲渡は、その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力を生じない。 2 前条の登記がされている根抵当権の担保すべき元本は、一個の不動産についてのみ確定すべき事由が生じた場合においても、確定する。 第三百九十八条の十八(累積根抵当)  数個の不動産につき根抵当権を有する者は、第三百九十八条の十六の場合を除き、各不動産の代価について、各極度額に至るまで優先権を行使することができる。 第三百九十八条の十九(根抵当権の元本の確定請求) 1 根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から三年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から二週間を経過することによって確定する。 2 根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。 3 前二項の規定は、担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、適用しない。 第三百九十八条の二十(根抵当権の元本の確定事由) 1 次に掲げる場合には、根抵当権の担保すべき元本は、確定する。  一 根抵当権者が抵当不動産について競売若しくは担保不動産収益執行又は第三百七十二条において準用する第三百四条の規定による差押えを申し立てたとき。ただし、競売手続若しくは担保不動産収益執行手続の開始又は差押えがあったときに限る。  二 根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。  三 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から二週間を経過したとき。  四 債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。  2 前項第三号の競売手続の開始若しくは差押え又は同項第四号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは、担保すべき元本は、確定しなかったものとみなす。ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない。 第三百九十八条の二十一(根抵当権の極度額の減額請求) 1 元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後二年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。 2 第三百九十八条の十六の登記がされている根抵当権の極度額の減額については、前項の規定による請求は、そのうちの一個の不動産についてすれば足りる。 第三百九十八条の二十二(根抵当権の消滅請求) 1 元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権、地上権、永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる。この場合において、その払渡し又は供託は、弁済の効力を有する。 2 第三百九十八条の十六の登記がされている根抵当権は、一個の不動産について前項の消滅請求があったときは、消滅する。 3 第三百八十条及び第三百八十一条の規定は、第一項の消滅請求について準用する。   第三編 債権    第一章 総則     第一節 債権の目的 第三百九十九条 (債権の目的)  債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる。 第四百条 (特定物の引渡しの場合の注意義務)  債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。 第四百一条 (種類債権) 1 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。 2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。 第四百二条 (金銭債権) 1 債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済をすることができる。ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。 2 債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは、債務者は、他の通貨で弁済をしなければならない。 3 前二項の規定は、外国の通貨の給付を債権の目的とした場合について準用する。 第四百三条  外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。 第四百四条 (法定利率)  利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。 第四百五条 (利息の元本への組入れ)  利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。 第四百六条 (選択債権における選択権の帰属)  債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。 第四百七条 (選択権の行使) 1 前条の選択権は、相手方に対する意思表示によって行使する。 2 前項の意思表示は、相手方の承諾を得なければ、撤回することができない。 第四百八条 (選択権の移転)  債権が弁済期にある場合において、相手方から相当の期間を定めて催告をしても、選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは、その選択権は、相手方に移転する。 第四百九条 (第三者の選択権) 1 第三者が選択をすべき場合には、その選択は、債権者又は債務者に対する意思表示によってする。 2 前項に規定する場合において、第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転する。 第四百十条 (不能による選択債権の特定) 1 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。 2 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない。 第四百十一条 (選択の効力)  選択は、債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。     第二節 債権の効力      第一款 債務不履行の責任等 第四百十二条 (履行期と履行遅滞) 1 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。 2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。 3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。 第四百十三条 (受領遅滞)  債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。 第四百十四条 (履行の強制) 1 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。 3 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。 4 前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。 第四百十五条 (債務不履行による損害賠償)  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。 第四百十六条 (損害賠償の範囲) 1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。 第四百十七条 (損害賠償の方法)  損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。 第四百十八条 (過失相殺)  債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。 第四百十九条 (金銭債務の特則) 1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。 2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。 3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。 第四百二十条 (賠償額の予定) 1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。 2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。 3 違約金は、賠償額の予定と推定する。 第四百二十一条  前条の規定は、当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する。 第四百二十二条 (損害賠償による代位)  債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。      第二款 債権者代位権及び詐害行為取消権 第四百二十三条 (債権者代位権) 1 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。 2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。 第四百二十四条 (詐害行為取消権) 1 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。 2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。 第四百二十五条 (詐害行為の取消しの効果)  前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。 第四百二十六条 (詐害行為取消権の期間の制限)  第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。     第三節 多数当事者の債権及び債務      第一款 総則 第四百二十七条 (分割債権及び分割債務)  数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。      第二款 不可分債権及び不可分債務 第四百二十八条 (不可分債権)  債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。 第四百二十九条 (不可分債権者の一人について生じた事由等の効力) 1 不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても、他の不可分債権者は、債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては、その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与される利益を債務者に償還しなければならない。 2 前項に規定する場合のほか、不可分債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、他の不可分債権者に対してその効力を生じない。 第四百三十条 (不可分債務)  前条の規定及び次款(連帯債務)の規定(第四百三十四条から第四百四十条までの規定を除く。)は、数人が不可分債務を負担する場合について準用する。 第四百三十一条 (可分債権又は可分債務への変更)  不可分債権が可分債権となったときは、各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができ、不可分債務が可分債務となったときは、各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負う。      第三款 連帯債務 第四百三十二条 (履行の請求)  数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。 第四百三十三条 (連帯債務者の一人についての法律行為の無効等)  連帯債務者の一人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は、その効力を妨げられない。 第四百三十四条 (連帯債務者の一人に対する履行の請求)  連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。 第四百三十五条 (連帯債務者の一人との間の更改)  連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。 第四百三十六条 (連帯債務者の一人による相殺等) 1 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。 2 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。 第四百三十七条 (連帯債務者の一人に対する免除)  連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。 第四百三十八条 (連帯債務者の一人との間の混同)  連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。 第四百三十九条 (連帯債務者の一人についての時効の完成)  連帯債務者の一人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる。 第四百四十条 (相対的効力の原則)  第四百三十四条から前条までに規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。 第四百四十一条 (連帯債務者についての破産手続の開始)  連帯債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときは、債権者は、その債権の全額について各破産財団の配当に加入することができる。 第四百四十二条 (連帯債務者間の求償権) 1 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する。 2 前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。 第四百四十三条 (通知を怠った連帯債務者の求償の制限) 1 連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、過失のある連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 2 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た連帯債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。 第四百四十四条 (償還をする資力のない者の負担部分の分担)  連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、各自の負担部分に応じて分割して負担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。 第四百四十五条(連帯の免除と弁済をする資力のない者の負担部分の分担)  連帯債務者の一人が連帯の免除を得た場合において、他の連帯債務者の中に弁済をする資力のない者があるときは、債権者は、その資力のない者が弁済をすることができない部分のうち連帯の免除を得た者が負担すべき部分を負担する。      第四款 保証債務       第一目 総則 第四百四十六条 (保証人の責任等) 1 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。 2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。 第四百四十七条 (保証債務の範囲) 1 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。 2 保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。 第四百四十八条 (保証人の負担が主たる債務より重い場合)  保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。 第四百四十九条 (取り消すことができる債務の保証)  行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は、保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは、主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する。 第四百五十条 (保証人の要件) 1 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。  一 行為能力者であること。  二 弁済をする資力を有すること。 2 保証人が前項第二号に掲げる要件を欠くに至ったときは、債権者は、同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。 3 前二項の規定は、債権者が保証人を指名した場合には、適用しない。 第四百五十一条 (他の担保の供与)  債務者は、前条第一項各号に掲げる要件を具備する保証人を立てることができないときは、他の担保を供してこれに代えることができる。 第四百五十二条 (催告の抗弁)  債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。 第四百五十三条 (検索の抗弁)  債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。 第四百五十四条 (連帯保証の場合の特則)  保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。 第四百五十五条 (催告の抗弁及び検索の抗弁の効果)  第四百五十二条又は第四百五十三条の規定により保証人の請求又は証明があったにもかかわらず、債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったときは、保証人は、債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得ることができた限度において、その義務を免れる。 第四百五十六条 (数人の保証人がある場合)  数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第四百二十七条の規定を適用する。 第四百五十七条 (主たる債務者について生じた事由の効力) 1 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。 2 保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。 第四百五十八条 (連帯保証人について生じた事由の効力)  第四百三十四条から第四百四十条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。 第四百五十九条 (委託を受けた保証人の求償権) 1 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け、又は主たる債務者に代わって弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対して求償権を有する。 2 第四百四十二条第二項の規定は、前項の場合について準用する。 第四百六十条 (委託を受けた保証人の事前の求償権)  保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。  一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。  二 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。  三 債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき。 第四百六十一条(主たる債務者が保証人に対して償還をする場合) 1 前二条の規定により主たる債務者が保証人に対して償還をする場合において、債権者が全部の弁済を受けない間は、主たる債務者は、保証人に担保を供させ、又は保証人に対して自己に免責を得させることを請求することができる。 2 前項に規定する場合において、主たる債務者は、供託をし、担保を供し、又は保証人に免責を得させて、その償還の義務を免れることができる。 第四百六十二条 (委託を受けない保証人の求償権) 1 主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは、主たる債務者は、その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。 2 主たる債務者の意思に反して保証をした者は、主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において、主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 第四百六十三条 (通知を怠った保証人の求償の制限) 1 第四百四十三条の規定は、保証人について準用する。 2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、善意で弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、第四百四十三条の規定は、主たる債務者についても準用する。 第四百六十四条 (連帯債務又は不可分債務の保証人の求償権)  連帯債務者又は不可分債務者の一人のために保証をした者は、他の債務者に対し、その負担部分のみについて求償権を有する。 第四百六十五条 (共同保証人間の求償権) 1 第四百四十二条から第四百四十四条までの規定は、数人の保証人がある場合において、そのうちの一人の保証人が、主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため、その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。 2 第四百六十二条の規定は、前項に規定する場合を除き、互いに連帯しない保証人の一人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。       第二目 貸金等根保証契約 第四百六十五条の二 (貸金等根保証契約の保証人の責任等) 1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。 2 貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。 3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。 第四百六十五条の三 (貸金等根保証契約の元本確定期日) 1 貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。 2 貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その貸金等根保証契約の締結の日から三年を経過する日とする。 3 貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは、この限りでない。 4 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。 第四百六十五条の四 (貸金等根保証契約の元本の確定事由)  次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。  一 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。  二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。  三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。 第四百六十五条の五 (保証人が法人である貸金等債務の根保証契約の求償権)  保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、第四百六十五条の二第一項に規定する極度額の定めがないとき、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第四百六十五条の三第一項若しくは第三項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は、その効力を生じない。     第四節 債権の譲渡 第四百六十六条 (債権の譲渡性) 1 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。 2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。 第四百六十七条 (指名債権の譲渡の対抗要件) 1 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。 第四百六十八条 (指名債権の譲渡における債務者の抗弁) 1 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。 2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。 第四百六十九条 (指図債権の譲渡の対抗要件)  指図債権の譲渡は、その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 第四百七十条 (指図債権の債務者の調査の権利等)  指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。 第四百七十一条 (記名式所持人払債権の債務者の調査の権利等)  前条の規定は、債権に関する証書に債権者を指名する記載がされているが、その証書の所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合について準用する。 第四百七十二条 (指図債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)  指図債権の債務者は、その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果を除き、その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。 第四百七十三条 (無記名債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)  前条の規定は、無記名債権について準用する。     第五節 債権の消滅      第一款 弁済       第一目 総則 第四百七十四条 (第三者の弁済) 1 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。 2 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。 第四百七十五条 (弁済として引き渡した物の取戻し)  弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。 第四百七十六条  譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において、その弁済を取り消したときは、その所有者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。 第四百七十七条 (弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)  前二条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。 第四百七十八条 (債権の準占有者に対する弁済)  債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。 第四百七十九条 (受領する権限のない者に対する弁済)  前条の場合を除き、弁済を受領する権限を有しない者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。 第四百八十条 (受取証書の持参人に対する弁済)  受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 第四百八十一条 (支払の差止めを受けた第三債務者の弁済) 1 支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。 2 前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。 第四百八十二条 (代物弁済)  債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。 第四百八十三条 (特定物の現状による引渡し)  債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。 第四百八十四条 (弁済の場所)  弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。 第四百八十五条 (弁済の費用)  弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。 第四百八十六条 (受取証書の交付請求)  弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。 第四百八十七条 (債権証書の返還請求)  債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。 第四百八十八条 (弁済の充当の指定) 1 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。 2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。 3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。 第四百八十九条 (法定充当)  弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。  一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。  二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。  三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。  四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。 第四百九十条 (数個の給付をすべき場合の充当)  一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前二条の規定を準用する。 第四百九十一条 (元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当) 1 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。 2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。 第四百九十二条 (弁済の提供の効果)  債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。 第四百九十三条 (弁済の提供の方法)  弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。       第二目 弁済の目的物の供託 第四百九十四条 (供託)  債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。 第四百九十五条 (供託の方法) 1 前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。 2 供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。 3 前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。 第四百九十六条 (供託物の取戻し) 1 債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす。 2 前項の規定は、供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。 第四百九十七条 (供託に適しない物等)  弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。 第四百九十八条 (供託物の受領の要件)  債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。       第三目 弁済による代位 第四百九十九条 (任意代位) 1 債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。 2 第四百六十七条の規定は、前項の場合について準用する。 第五百条 (法定代位)  弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。 第五百一条 (弁済による代位の効果)  前二条の規定により債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。この場合においては、次の各号の定めるところに従わなければならない。  一 保証人は、あらかじめ先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。  二 第三取得者は、保証人に対して債権者に代位しない。  三 第三取得者の一人は、各不動産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。  四 物上保証人の一人は、各財産の価格に応じて、他の物上保証人に対して債権者に代位する。  五 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。  六 前号の場合において、その財産が不動産であるときは、第一号の規定を準用する。 第五百二条 (一部弁済による代位) 1 債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使する。 2 前項の場合において、債務の不履行による契約の解除は、債権者のみがすることができる。この場合においては、代位者に対し、その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。 第五百三条 (債権者による債権証書の交付等) 1 代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。 2 債権の一部について代位弁済があった場合には、債権者は、債権に関する証書にその代位を記入し、かつ、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。 第五百四条 (債権者による担保の喪失等)  第五百条の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。      第二款 相殺 第五百五条 (相殺の要件等) 1 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。 第五百六条 (相殺の方法及び効力) 1 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。 2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。 第五百七条 (履行地の異なる債務の相殺)  相殺は、双方の債務の履行地が異なるときであっても、することができる。この場合において、相殺をする当事者は、相手方に対し、これによって生じた損害を賠償しなければならない。 第五百八条 (時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)  時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。 第五百九条 (不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)  債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。 第五百十条 (差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止)  債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。 第五百十一条 (支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)  支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。 第五百十二条 (相殺の充当)  第四百八十八条から第四百九十一条までの規定は、相殺について準用する。      第三款 更改 第五百十三条 (更改) 1 当事者が債務の要素を変更する契約をしたときは、その債務は、更改によって消滅する。 2 条件付債務を無条件債務としたとき、無条件債務に条件を付したとき、又は債務の条件を変更したときは、いずれも債務の要素を変更したものとみなす。 第五百十四条 (債務者の交替による更改)  債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし、更改前の債務者の意思に反するときは、この限りでない。 第五百十五条 (債権者の交替による更改)  債権者の交替による更改は、確定日付のある証書によってしなければ、第三者に対抗することができない。 第五百十六条  第四百六十八条第一項の規定は、債権者の交替による更改について準用する。 第五百十七条 (更改前の債務が消滅しない場合)  更改によって生じた債務が、不法な原因のため又は当事者の知らない事由によって成立せず又は取り消されたときは、更改前の債務は、消滅しない。 第五百十八条 (更改後の債務への担保の移転)  更改の当事者は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。      第四款 免除 第五百十九条  債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。      第五款 混同 第五百二十条  債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。    第二章 契約     第一節 総則      第一款 契約の成立 第五百二十一条(承諾の期間の定めのある申込み) 1 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。 2 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。 第五百二十二条(承諾の通知の延着) 1 前条第一項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、申込者は、遅滞なく、相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし、その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。 2 申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の通知は、前条第一項の期間内に到達したものとみなす。 第五百二十三条(遅延した承諾の効力)  申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。 第五百二十四条(承諾の期間の定めのない申込み)  承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。 第五百二十五条(申込者の死亡又は行為能力の喪失)  第九十七条第二項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。 第五百二十六条(隔地者間の契約の成立時期) 1 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。 2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。 第五百二十七条(申込みの撤回の通知の延着) 1 申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても、通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。 2 承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは、契約は、成立しなかったものとみなす。 第五百二十八条(申込みに変更を加えた承諾)  承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。 第五百二十九条(懸賞広告)  ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この款において「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。 第五百三十条(懸賞広告の撤回) 1 前条の場合において、懸賞広告者は、その指定した行為を完了する者がない間は、前の広告と同一の方法によってその広告を撤回することができる。ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、この限りでない。 2 前項本文に規定する方法によって撤回をすることができない場合には、他の方法によって撤回をすることができる。この場合において、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その効力を有する。 3 懸賞広告者がその指定した行為をする期間を定めたときは、その撤回をする権利を放棄したものと推定する。 第五百三十一条(懸賞広告の報酬を受ける権利) 1 広告に定めた行為をした者が数人あるときは、最初にその行為をした者のみが報酬を受ける権利を有する。 2 数人が同時に前項の行為をした場合には、各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有する。ただし、報酬がその性質上分割に適しないとき、又は広告において一人のみがこれを受けるものとしたときは、抽選でこれを受ける者を定める。 3 前二項の規定は、広告中にこれと異なる意思を表示したときは、適用しない。 第五百三十二条(優等懸賞広告) 1 広告に定めた行為をした者が数人ある場合において、その優等者のみに報酬を与えるべきときは、その広告は、応募の期間を定めたときに限り、その効力を有する。 2 前項の場合において、応募者中いずれの者の行為が優等であるかは、広告中に定めた者が判定し、広告中に判定をする者を定めなかったときは懸賞広告者が判定する。 3 応募者は、前項の判定に対して異議を述べることができない。 4 前条第二項の規定は、数人の行為が同等と判定された場合について準用する。      第二款 契約の効力 第五百三十三条(同時履行の抗弁)  双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。 第五百三十四条(債権者の危険負担) 1 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。 2 不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。 第五百三十五条(停止条件付双務契約における危険負担) 1 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。 2 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。 3 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。 第五百三十六条(債務者の危険負担等) 1 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 第五百三十七条(第三者のためにする契約) 1 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。 2 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。 第五百三十八条(第三者の権利の確定)  前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。 第五百三十九条(債務者の抗弁)  債務者は、第五百三十七条第一項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。      第三款 契約の解除 第五百四十条(解除権の行使) 1 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。 2 前項の意思表示は、撤回することができない。 第五百四十一条(履行遅滞等による解除権)  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 第五百四十二条(定期行為の履行遅滞による解除権)  契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。 第五百四十三条(履行不能による解除権)  履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 第五百四十四条(解除権の不可分性) 1 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。 2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。 第五百四十五条(解除の効果) 1 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。 2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。 3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。 第五百四十六条(契約の解除と同時履行)  第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。 第五百四十七条(催告による解除権の消滅)  解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。 第五百四十八条(解除権者の行為等による解除権の消滅) 1 解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。 2 契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し、又は損傷したときは、解除権は、消滅しない。     第二節 贈与 第五百四十九条(贈与)  贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。 第五百五十条(書面によらない贈与の撤回)  書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。 第五百五十一条(贈与者の担保責任) 1 贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。 2 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。 第五百五十二条(定期贈与)  定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。 第五百五十三条(負担付贈与)  負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。 第五百五十四条(死因贈与)  贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。     第三節 売買      第一款 総則 第五百五十五条(売買)  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 第五百五十六条(売買の一方の予約) 1 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。 2 前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。 第五百五十七条(手付) 1 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。 2 第五百四十五条第三項の規定は、前項の場合には、適用しない。 第五百五十八条(売買契約に関する費用)  売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。 第五百五十九条(有償契約への準用)  この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。      第二款 売買の効力 第五百六十条(他人の権利の売買における売主の義務)  他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。 第五百六十一条(他人の権利の売買における売主の担保責任)  前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。 第五百六十二条(他人の権利の売買における善意の売主の解除権) 1 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。 2 前項の場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。 第五百六十三条(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任) 1 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。 2 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。 3 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。 第五百六十四条  前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ一年以内に行使しなければならない。 第五百六十五条(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)  前二条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。 第五百六十六条(地上権等がある場合等における売主の担保責任) 1 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。 2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。 3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。 第五百六十七条(抵当権等がある場合における売主の担保責任) 1 売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。 2 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。 3 前二項の場合において、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。 第五百六十八条(強制競売における担保責任) 1 強制競売における買受人は、第五百六十一条から前条までの規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。 2 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。 3 前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。 第五百六十九条(債権の売主の担保責任) 1 債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する。 2 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定する。 第五百七十条(売主の瑕疵担保責任)  売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 第五百七十一条(売主の担保責任と同時履行)  第五百三十三条の規定は、第五百六十三条から第五百六十六条まで及び前条の場合について準用する。 第五百七十二条(担保責任を負わない旨の特約)  売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。 第五百七十三条(代金の支払期限)  売買の目的物の引渡しについて期限があるときは、代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。 第五百七十四条(代金の支払場所)  売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。 第五百七十五条(果実の帰属及び代金の利息の支払) 1 まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。 2 買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。 第五百七十六条(権利を失うおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)  売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは、買主は、その危険の限度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。 第五百七十七条(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶) 1 買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。 2 前項の規定は、買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。 第五百七十八条(売主による代金の供託の請求)  前二条の場合においては、売主は、買主に対して代金の供託を請求することができる。      第三款 買戻し 第五百七十九条(買戻しの特約)  不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。 第五百八十条(買戻しの期間) 1 買戻しの期間は、十年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、十年とする。 2 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。 3 買戻しについて期間を定めなかったときは、五年以内に買戻しをしなければならない。 第五百八十一条(買戻しの特約の対抗力) 1 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を生ずる。 2 登記をした賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。 第五百八十二条(買戻権の代位行使)  売主の債権者が第四百二十三条の規定により売主に代わって買戻しをしようとするときは、買主は、裁判所において選任した鑑定人の評価に従い、不動産の現在の価額から売主が返還すべき金額を控除した残額に達するまで売主の債務を弁済し、なお残余があるときはこれを売主に返還して、買戻権を消滅させることができる。 第五百八十三条(買戻しの実行) 1 売主は、第五百八十条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。 2 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第百九十六条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。 第五百八十四条(共有持分の買戻特約付売買)  不動産の共有者の一人が買戻しの特約を付してその持分を売却した後に、その不動産の分割又は競売があったときは、売主は、買主が受け、若しくは受けるべき部分又は代金について、買戻しをすることができる。ただし、売主に通知をしないでした分割及び競売は、売主に対抗することができない。 第五百八十五条 1 前条の場合において、買主が不動産の競売における買受人となったときは、売主は、競売の代金及び第五百八十三条に規定する費用を支払って買戻しをすることができる。この場合において、売主は、その不動産の全部の所有権を取得する。 2 他の共有者が分割を請求したことにより買主が競売における買受人となったときは、売主は、その持分のみについて買戻しをすることはできない。     第四節 交換 第五百八十六条 1 交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。 2 当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については、売買の代金に関する規定を準用する。     第五節 消費貸借 第五百八十七条(消費貸借)  消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 第五百八十八条(準消費貸借)  消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。 第五百八十九条(消費貸借の予約と破産手続の開始)  消費貸借の予約は、その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。 第五百九十条(貸主の担保責任) 1 利息付きの消費貸借において、物に隠れた瑕疵があったときは、貸主は、瑕疵がない物をもってこれに代えなければならない。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。 2 無利息の消費貸借においては、借主は、瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において、貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは、前項の規定を準用する。 第五百九十一条(返還の時期) 1 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。 2 借主は、いつでも返還をすることができる。 第五百九十二条(価額の償還)  借主が貸主から受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは、その時における物の価額を償還しなければならない。ただし、第四百二条第二項に規定する場合は、この限りでない。     第六節 使用貸借 第五百九十三条(使用貸借)  使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 第五百九十四条(借主による使用及び収益) 1 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。 2 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。 3 借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。 第五百九十五条(借用物の費用の負担) 1 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。 2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。 第五百九十六条(貸主の担保責任)  第五百五十一条の規定は、使用貸借について準用する。 第五百九十七条(借用物の返還の時期) 1 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。 2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。 3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。 第五百九十八条(借主による収去)  借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。 第五百九十九条(借主の死亡による使用貸借の終了)  使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。 第六百条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)  契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。     第七節 賃貸借      第一款 総則 第六百一条(賃貸借)  賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 第六百二条(短期賃貸借)  処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。  一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年  二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年  三 建物の賃貸借 三年  四 動産の賃貸借 六箇月 第六百三条(短期賃貸借の更新)  前条に定める期間は、更新することができる。ただし、その期間満了前、土地については一年以内、建物については三箇月以内、動産については一箇月以内に、その更新をしなければならない。 第六百四条(賃貸借の存続期間) 1 賃貸借の存続期間は、二十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、二十年とする。 2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から二十年を超えることができない。      第二款 賃貸借の効力 第六百五条(不動産賃貸借の対抗力)  不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。 第六百六条(賃貸物の修繕等) 1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。 第六百七条(賃借人の意思に反する保存行為)  賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。 第六百八条(賃借人による費用の償還請求) 1 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。 2 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。 第六百九条(減収による賃料の減額請求)  収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。 第六百十条(減収による解除)  前条の場合において、同条の賃借人は、不可抗力によって引き続き二年以上賃料より少ない収益を得たときは、契約の解除をすることができる。 第六百十一条(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等) 1 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。 2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。 第六百十二条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) 1 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。 2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。 第六百十三条(転貸の効果) 1 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。 2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。 第六百十四条(賃料の支払時期)  賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。 第六百十五条(賃借人の通知義務)  賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。 第六百十六条(使用貸借の規定の準用)  第五百九十四条第一項、第五百九十七条第一項及び第五百九十八条の規定は、賃貸借について準用する。      第三款 賃貸借の終了 第六百十七条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ) 1 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。  一 土地の賃貸借 一年  二 建物の賃貸借 三箇月  三 動産及び貸席の賃貸借 一日 2 収穫の季節がある土地の賃貸借については、その季節の後次の耕作に着手する前に、解約の申入れをしなければならない。 第六百十八条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)  当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。 第六百十九条(賃貸借の更新の推定等) 1 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。 2 従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、敷金については、この限りでない。 第六百二十条(賃貸借の解除の効力)  賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない。 第六百二十一条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)  第六百条の規定は、賃貸借について準用する。 第六百二十二条  削除     第八節 雇用 第六百二十三条(雇用)  雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。 第六百二十四条(報酬の支払時期) 1 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。 2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。 第六百二十五条(使用者の権利の譲渡の制限等) 1 使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。 2 労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。 3 労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は、契約の解除をすることができる。 第六百二十六条(期間の定めのある雇用の解除) 1 雇用の期間が五年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習を目的とする雇用については、十年とする。 2 前項の規定により契約の解除をしようとするときは、三箇月前にその予告をしなければならない。 第六百二十七条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ) 1 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。 2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。 3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。 第六百二十八条(やむを得ない事由による雇用の解除)  当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。 第六百二十九条(雇用の更新の推定等) 1 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。 2 従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。 第六百三十条(雇用の解除の効力)  第六百二十条の規定は、雇用について準用する。 第六百三十一条(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)  使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、雇用に期間の定めがあるときであっても、労働者又は破産管財人は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において、各当事者は、相手方に対し、解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。     第九節 請負 第六百三十二条(請負)  請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 第六百三十三条(報酬の支払時期)  報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。 第六百三十四条(請負人の担保責任) 1 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。 2 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第五百三十三条の規定を準用する。 第六百三十五条  仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。 第六百三十六条(請負人の担保責任に関する規定の不適用)  前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。 第六百三十七条(請負人の担保責任の存続期間) 1 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。 2 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。 第六百三十八条 1 建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後五年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、十年とする。 2 工作物が前項の瑕疵によって滅失し、又は損傷したときは、注文者は、その滅失又は損傷の時から一年以内に、第六百三十四条の規定による権利を行使しなければならない。 第六百三十九条(担保責任の存続期間の伸長)  第六百三十七条及び前条第一項の期間は、第百六十七条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる。 第六百四十条(担保責任を負わない旨の特約)  請負人は、第六百三十四条又は第六百三十五条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。 第六百四十一条(注文者による契約の解除)  請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。 第六百四十二条(注文者についての破産手続の開始による解除) 1 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。この場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。 2 前項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する。     第十節 委任 第六百四十三条(委任)  委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。 第六百四十四条(受任者の注意義務)  受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。 第六百四十五条(受任者による報告)  受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。 第六百四十六条(受任者による受取物の引渡し等) 1 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。 2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。 第六百四十七条(受任者の金銭の消費についての責任)  受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。 第六百四十八条(受任者の報酬) 1 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。 2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。 3 委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。 第六百四十九条(受任者による費用の前払請求)  委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。 第六百五十条(受任者による費用等の償還請求等) 1 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。 2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。 3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。 第六百五十一条(委任の解除) 1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。 第六百五十二条(委任の解除の効力)  第六百二十条の規定は、委任について準用する。 第六百五十三条(委任の終了事由)  委任は、次に掲げる事由によって終了する。  一 委任者又は受任者の死亡  二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。  三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。 第六百五十四条(委任の終了後の処分)  委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。 第六百五十五条(委任の終了の対抗要件)  委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。 第六百五十六条(準委任)  この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。     第十一節 寄託 第六百五十七条(寄託)  寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 第六百五十八条(寄託物の使用及び第三者による保管) 1 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用し、又は第三者にこれを保管させることができない。 2 第百五条及び第百七条第二項の規定は、受寄者が第三者に寄託物を保管させることができる場合について準用する。 第六百五十九条(無償受寄者の注意義務)  無報酬で寄託を受けた者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。 第六百六十条(受寄者の通知義務)  寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。 第六百六十一条(寄託者による損害賠償)  寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。 第六百六十二条(寄託者による返還請求)  当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。 第六百六十三条(寄託物の返還の時期) 1 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。 2 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。 第六百六十四条(寄託物の返還の場所)  寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる。 第六百六十五条(委任の規定の準用)  第六百四十六条から第六百五十条まで(同条第三項を除く。)の規定は、寄託について準用する。 第六百六十六条(消費寄託) 1 第五節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。 2 前項において準用する第五百九十一条第一項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる。     第十二節 組合 第六百六十七条(組合契約) 1 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。 2 出資は、労務をその目的とすることができる。 第六百六十八条(組合財産の共有)  各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する。 第六百六十九条(金銭出資の不履行の責任)  金銭を出資の目的とした場合において、組合員がその出資をすることを怠ったときは、その利息を支払うほか、損害の賠償をしなければならない。 第六百七十条(業務の執行の方法) 1 組合の業務の執行は、組合員の過半数で決する。 2 前項の業務の執行は、組合契約でこれを委任した者(次項において「業務執行者」という。)が数人あるときは、その過半数で決する。 3 組合の常務は、前二項の規定にかかわらず、各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただし、その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは、この限りでない。 第六百七十一条(委任の規定の準用)  第六百四十四条から第六百五十条までの規定は、組合の業務を執行する組合員について準用する。 第六百七十二条(業務執行組合員の辞任及び解任) 1 組合契約で一人又は数人の組合員に業務の執行を委任したときは、その組合員は、正当な事由がなければ、辞任することができない。 2 前項の組合員は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によって解任することができる。 第六百七十三条(組合員の組合の業務及び財産状況に関する検査)  各組合員は、組合の業務を執行する権利を有しないときであっても、その業務及び組合財産の状況を検査することができる。 第六百七十四条(組合員の損益分配の割合) 1 当事者が損益分配の割合を定めなかったときは、その割合は、各組合員の出資の価額に応じて定める。 2 利益又は損失についてのみ分配の割合を定めたときは、その割合は、利益及び損失に共通であるものと推定する。 第六百七十五条(組合員に対する組合の債権者の権利の行使)  組合の債権者は、その債権の発生の時に組合員の損失分担の割合を知らなかったときは、各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができる。 第六百七十六条(組合員の持分の処分及び組合財産の分割) 1 組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。 2 組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。 第六百七十七条(組合の債務者による相殺の禁止)  組合の債務者は、その債務と組合員に対する債権とを相殺することができない。 第六百七十八条(組合員の脱退) 1 組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。 2 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。 第六百七十九条  前条の場合のほか、組合員は、次に掲げる事由によって脱退する。  一 死亡  二 破産手続開始の決定を受けたこと。  三 後見開始の審判を受けたこと。  四 除名 第六百八十条(組合員の除名)  組合員の除名は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によってすることができる。ただし、除名した組合員にその旨を通知しなければ、これをもってその組合員に対抗することができない。 第六百八十一条(脱退した組合員の持分の払戻し) 1 脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。 2 脱退した組合員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。 3 脱退の時にまだ完了していない事項については、その完了後に計算をすることができる。 第六百八十二条(組合の解散事由)  組合は、その目的である事業の成功又はその成功の不能によって解散する。 第六百八十三条(組合の解散の請求)  やむを得ない事由があるときは、各組合員は、組合の解散を請求することができる。 第六百八十四条(組合契約の解除の効力)  第六百二十条の規定は、組合契約について準用する。 第六百八十五条(組合の清算及び清算人の選任) 1 組合が解散したときは、清算は、総組合員が共同して、又はその選任した清算人がこれをする。 2 清算人の選任は、総組合員の過半数で決する。 第六百八十六条(清算人の業務の執行の方法)  第六百七十条の規定は、清算人が数人ある場合について準用する。 第六百八十七条(組合員である清算人の辞任及び解任)  第六百七十二条の規定は、組合契約で組合員の中から清算人を選任した場合について準用する。 第六百八十八条(清算人の職務及び権限並びに残余財産の分割方法) 1 清算人の職務は、次のとおりとする。  一 現務の結了  二 債権の取立て及び債務の弁済  三 残余財産の引渡し 2 清算人は、前項各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。 3 残余財産は、各組合員の出資の価額に応じて分割する。     第十三節 終身定期金 第六百八十九条(終身定期金契約)  終身定期金契約は、当事者の一方が、自己、相手方又は第三者の死亡に至るまで、定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって、その効力を生ずる。 第六百九十条(終身定期金の計算)  終身定期金は、日割りで計算する。 第六百九十一条(終身定期金契約の解除) 1 終身定期金債務者が終身定期金の元本を受領した場合において、その終身定期金の給付を怠り、又はその他の義務を履行しないときは、相手方は、元本の返還を請求することができる。この場合において、相手方は、既に受け取った終身定期金の中からその元本の利息を控除した残額を終身定期金債務者に返還しなければならない。 2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。 第六百九十二条(終身定期金契約の解除と同時履行)  第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。 第六百九十三条(終身定期金債権の存続の宣告) 1 終身定期金債務者の責めに帰すべき事由によって第六百八十九条に規定する死亡が生じたときは、裁判所は、終身定期金債権者又はその相続人の請求により、終身定期金債権が相当の期間存続することを宣告することができる。 2 前項の規定は、第六百九十一条の権利の行使を妨げない。 第六百九十四条(終身定期金の遺贈)  この節の規定は、終身定期金の遺贈について準用する。     第十四節 和解 第六百九十五条(和解)  和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。 第六百九十六条(和解の効力)  当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。    第三章 事務管理 第六百九十七条(事務管理) 1 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。 2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。 第六百九十八条(緊急事務管理)  管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。 第六百九十九条(管理者の通知義務)  管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし、本人が既にこれを知っているときは、この限りでない。 第七百条(管理者による事務管理の継続)  管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない。ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、この限りでない。 第七百一条(委任の規定の準用)  第六百四十五条から第六百四十七条までの規定は、事務管理について準用する。 第七百二条(管理者による費用の償還請求等) 1 管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。 2 第六百五十条第二項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。 3 管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。    第四章 不当利得 第七百三条(不当利得の返還義務)  法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 第七百四条(悪意の受益者の返還義務等)  悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。 第七百五条(債務の不存在を知ってした弁済)  債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。 第七百六条(期限前の弁済)  債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。 第七百七条(他人の債務の弁済) 1 債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。 2 前項の規定は、弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。 第七百八条(不法原因給付)  不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。    第五章 不法行為 第七百九条(不法行為による損害賠償)  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 第七百十条(財産以外の損害の賠償)  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。 第七百十一条(近親者に対する損害の賠償)  他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。 第七百十二条(責任能力)  未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。 第七百十三条  精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。 第七百十四条(責任無能力者の監督義務者等の責任) 1 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。 第七百十五条(使用者等の責任) 1 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。 3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。 第七百十六条(注文者の責任)  注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。 第七百十七条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任) 1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。 3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。 第七百十八条(動物の占有者等の責任) 1 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。 2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。 第七百十九条(共同不法行為者の責任) 1 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。 2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。 第七百二十条(正当防衛及び緊急避難) 1 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。 2 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。 第七百二十一条(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)  胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。 第七百二十二条(損害賠償の方法及び過失相殺) 1 第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。 2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。 第七百二十三条(名誉毀損における原状回復)  他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。 第七百二十四条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)  不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。